ブックタイトル趣人02

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概要

趣人02

のが良く、短時間で調理すると水分が出やすいので、ゆっくり煮るのがコツだとか。さらに盛りつけのポイントは、中心を高くし、彩りは、青、赤、黄色をバランスよく配色するなど、いろいろ勉強になることばかり。 ちなみに原さんご自慢のおかずは、丸い巻き物。あげの外に更にかんぴょうを巻くことで、だしをよく吸っておいしくなるそうです。 最後に、料理が上手になるコツはと聞いたところ、まず作っている時に楽しむこと、そして本当に美味しいものをたくさん知ることですねと教えて下さった。 取材の後、原さんのお料理を桜坂観山荘の素敵な個室でいただいた。一品ずつがほんとにおいしくて、これできっと私も料理上手になれるはずとひとり胸の中でニンマリした。 心がポカポカ浮き立つ季節、皆さんもおいしいお弁当を作って、どこかに出かけてみませんか。もちろん原さんのお料理もぜひ味わってみて下さい。木村佳代のツウになろう文●木村佳代 弟も書いているように、わさびは桜坂やイムリでは必要不可欠な食材だ。漢字で〈山葵〉と表するこの食材は、資料によると奈良・平安の時代にすでに使用していたというから、まさしく日本を代表する香辛料といってもいいだろう。 全草に特有の香気と辛みを持ち、とくに根茎をすりおろすと酵素の働きで辛みが生じる。葉や葉茎もおひたしや和えものとして使い、人によってはこちらの方が好きだという方もいるほどだ。 最近ではチューブ入りのものも幅をきかせているが、やはり自然のまま育てられたわさびには味、辛みともかなわない。 もちろん桜坂でもイムリでも自然のわさびを使っているが、今回お邪魔したわさび沢は本当にキレイだった。 阿蘇山系の伏流水が育てた自然の恵みは、ちょうど私たちが訪れた時は白い小さな花をつけ、まるで絵本の世界に出てくるような光景だった。 それに生産者の森さんからいただいた、わさびの味わい深い辛み。これこそ本物の味だと実感した。取材後、「また来なさい、もう少ししたら、たらの芽や山独活が取れるから」といって下さった森さんの優しい笑顔が今も忘れられない。 森さん、本当にありがとうございました。 編集長から次の食材は何がいいかと聞かれた時、私はすぐに「わさび」と答えた。 わさびは、料理の世界とりわけ和食では昔から重要な薬味である。毒消しとして、また殺菌作用に大変効果のある食材で、特に根わさびはあとをひかないツンとくる辛みが特徴だが、いわゆる子供にはなかなか理解しがたい大人の味といってもいいだろう。 その大人の味を求めて、大分県日田市に車を走らせた。今回のナビゲーターは、私たちの店を支えてくれている食の達人、田中青果の田中さんと日田のJAの皆さんだ。 詳しい場所は秘密にしておくが、日田インターから車で一時間三十分、さらに車を降りて山道を三十分ほど歩くと、わさびの沢が突然私の目の前に広がった。「スゲェー」おもわず声が出た。山の奥まで続く緑の絨毯。早春の光にきらめくわさびの葉、そして谷間を流れる美しい湧き水。 本当に九州にこんな場所があるんだ。私はただただ感嘆の言葉を繰り返しながら、このわさびの沢を見つめていた。 するとその沢の奥から一人の男性が降りてきた。生産者の森朝光(としみつ)さんだ。今年で八十一歳になるという森さんは、その年齢が信じられないくらいに若々しく、なかなかの男前だ。  このわさびの沢は、森さんが二十五年という歳月をかけて作りあげ、自然のままで育てたとものだという。 きれいな水、七?八度に保たれた水温、そして一定の水量。この条件が揃わないと良いわさびは出来ないと、森さんは教えてくれた。 誘われて湧き水を飲んでみたが、そのおいしさに驚いた。ちなみに、わさびはさめ肌で擦り少しだけ砂糖を加えると、辛さが増すとのこと。また、二年?二年半もののわさびが一番食べ頃だという。 森さんの話を聞きながら、私は自然と向き合ってきた人の顔は本当にかっこいいなと思った。 木々を見つめ、自然の恵みを大切にしながら生きる暮らし。そんな生き方から本物のわさびが生まれるんだと思った。 前回の魚といい、今回のわさびといい、食材を求める旅は私に物の大切さを教えてくれる。 おみやげにもらった、とれたてのわさびを見ながら、私もいつかわさびだけを肴にしてうまい酒を飲める、粋な大人になりたいと思った。文●裕次郎2 ナナシノ・ゴンベエとは一体誰なのか、多くの読者の方から、そんな質問が私の拙いエッセイに寄せられたそうだ。 名を明かすのはとずいぶん悩んだが、これ以上読者を混乱させたくないという編集部の意向もあって、恥ずかしながら今回から本名で書かせてもらうことにした。 さて本題に戻ろう。今回ご紹介するのは、十九世紀半ばから世界中の人々に飲まれ続けてきたカクテルの女王、マンハッタンである。 イギリスの首相だったチャーチルの母、ジェニーが考案した、いやいや、アメリカ西部のメリーランド州のあるバーで、傷を負ったガンマンに気付けとして出されたなど、その誕生にはいくつかの説がある。またこちらもマティーニ同様、こだわるドリンカーは多く、ドライかスイートか議論が絶えないカクテルだが、私はマンハッタンを作るたびにいつも一人の友人を思い出す。 彼の名はK。ニューヨークでブルースシンガーを目ざしている男だ。「もしもし、俺、うん、……また振られた」 受話器の向こうで彼が呟く。普段は便りひとつよこさないくせに、女性に失恋した時だけ、なぜか私に電話をしてくる。そして事の顛末を泣き声まじりで話すのだ。「冗談抜きで君が好きだ」と口説き、「冗談にして下さい」と真顔で言ったS子さん、「日本の男はシャイだから嫌い」といわれ、果敢にアタックし、「あなただけはシャイでいて」と答えたケイト嬢など、おかげで私は彼の好きになった女性を全ていえる。 でも私は彼が振られるのをいつも心待ちにしている。それは失恋するたびに歌が生まれるからだ。話をひととおり終えると決まって彼は受話器の向こうで新曲を披露してくれる。 挨拶さえまともに交わせないこの街で/愛想笑い振りまき暮らしているよ/慣れるまでの間手紙は書かない/吐息交じりの声聞かせたくないから/小さな島に住む君へ/贈る言葉はないけど/今夜ここで歌うよ/アメリカよりもでかいマイラブ/ これが先日私が受話器越しに聴いた彼の新曲「小さな島に住む君へ」という歌だ。ごつい顔でシャウトするKの顔が浮かぶ。 私はいつか彼のためにとびきりドライなマンハッタンを作ってやろうと思っている。 ちなみに彼のオリジナルは、もうすでに五十曲を越えた。 いやはや恋多き男?である。「マンハッタン」vol, 2文●藤野正明(イムリ・Barman)何かと理由をつけて、田舎の高校生の私は小倉の街によく遊びに来ていた。天守閣の再建は一九五六年(昭和三十四年)だから、城はまだなかった。紫川の周辺には、バラックが積み木のように立ち、水面にはボートが浮かんでいた。ある日。井筒屋の食堂で紙のように薄いかまぼことネギだけの安いうどんをすすっていた。前の席には、ばかでかいアメリカ兵(進駐軍)が、牛肉(ハンバーグ?)でうまそうにビールを飲んでいた。日本中がまだ混乱の中で駆けずり回っている時代だった。驚いた。羨ましくも思った。「これが文化だ!」と実感した。それから本気で絵を描きはじめて画家になった。あの日から五十年。私は「食」に走り、朝からビールを飲んでいる。少しだけ「文化」もわかりはじめた。「小倉の街」絵の具箱のひとりごと絵と文●高坂昇(洋画家) 今回のテーマは、「行楽弁当」。お弁当と聞いただけで嬉しくなってしまう私としてはワクワクしながら、桜坂観山荘の厨房に向かった。教えて下さるのは、桜坂の料理長、原文夫さん。笑顔が素敵な優しい感じの方で、撮影前にいろんな質問をしてみた。 「これはあんこですね?」いえいえ、ゆり根のダンゴです。「この緑は抹茶ですね?」いえいえ、グリーンピースです。「この赤はエビのすり身ですか?」いえいえ、梅肉です。「じゃあ、この黄色いのはチーズですか?」いえいえ、板ウニです。「タケノコにトマトが入ってますね?」いえいえ、京人参です。 ふー、我ながら自分の知識不足に呆れる。でもそんな私を気づかって始終優しい口調で教えて下さる原さん。気を取り直して、早速お弁当作りに挑戦した。 今回私がトライしたのはおにぎり、白玉の空豆きんとん、筍の桂むき、そしてゆり根で作る桜の花びらの四品。 まずはおにぎり。ポイントはもち米で作ること。もち米を普通に炊いて味付けは塩。ささっとグリーンピースを混ぜ小さな俵にしたら、桜の葉をくるっと巻いて桜の香りをつけるためにほんの少し蒸す。思ったよりも簡単でこれはすぐにマスター。 白玉の空豆きんとんは、白玉だんごに裏ごしした空豆にシロップを加えたものでこれもなんとか作れた。大変だったのは、筍の桂むきでなかなか原さんのようにはうまくいかなかった。 ゆり根を一枚一枚丁寧にはがし桜の花びらを作るのは、絵を描くのが好きな私にとってはとても楽しい作業だった。 原さん曰く、お弁当作りの基本は、ある物で作る、喰い味で作るということ。喰い味とは、一口で美味しいと感じる味にすることだそうだ。煮物は薄味がしっかりしみたも木村佳代/タレント現在、TNC「Q でん百科」、FM福岡「ブームアップ!フクオカ」などのパーソナリティーとして活躍中。ちょっとひとこと文●康太郎生産者の森朝光さん5 4料理屋の趣人◎川畑摩心(かわばたまこと)川畑裕次郎/「IMURI」オーナー。 川畑康太郎/桜坂「観山荘」主人。森さんの話に聞き入る二人おもわず、わさびに齧りつく裕次郎これぞ絶景!わさび沢佳代サンを心配そうに? 見つめる料理長の原文夫さんいよいよお弁当作りにトライ!きれいなお弁当に大満足の佳代サン彩り鮮やかな料理長の盛り付け