筒井ガンコ堂:桜坂観山荘10周年記念エッセイ

辰巳琢郎と美食の晩餐

桜坂観山荘十周年企画「辰巳琢郎と美食の晩餐」は「日本ワインとスローフードin福岡2007」の一環として、10月20日夜7時30分から同荘の大宴会場で催された。会場は夜の準礼服に身を包んだ男女約70人の客で華やいだ雰囲気で終始した。

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 当夜の趣向はずばり美食と美酒。同荘の木村義隆料理長が最高級の秋の食材を惜しげもなく使い、最高の技術を駆使してつくり上げた究極の料理の数々と、 その一つ一つの料理に合わせて、日本ソムリエ協会名誉ソムリエで、「日本ワインを愛する会」副会長の俳優・辰巳琢郎氏が、日本の優れたワイナリーから厳選して取り寄せた、ワイナリーでしか飲めないレアなワインの数々とのマリアージュ、それも辰巳氏自らのワインの解説付きという豪華版であった。

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まず白い長皿に置かれた縦・横5センチ、長さ20センチの氷の上で冷やした自家製笹豆腐を無濾過・非加熱の「クラノオト甲州」と合わせ味わう中、同荘の川畑康太郎代表の挨拶で宴が始まった。笹豆腐は同荘の創業者・川畑摩心氏の考案したもので、佐賀産の大豆、ふくゆたかを使用、水は八木山の湧水を使っている。そのふくよかな味を楽しむため、糸島産「またいち」の花塩で食べる。何とも心地よいスタートだった。

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 オードブルは大村湾の赤ナマコの柿釜盛り、唐津産殻生海胆(うに)、鮟鱇(あんこう)の肝の塩蒸し、銀杏など。ワインは長野・小布施のスパークリングワインのロゼ。
 次に唐津産の、九州の秋の極め付け、大アラの刺身三種。ちなみにこの日に出た料理の食材の多くが九州産というのは、木村料理長の心意気であった。寸葱巻き造りは自家製橙(だいだい)酢で、焼き霜造りは生醤油と伊豆産山葵(わさび)で、角切りは対馬の藻塩(もしお)と炒り胡麻(ごま)でという贅沢さ。ワインは香り高い山梨の石蔵和飲(ワイン)「マスカットベイリー2002年(赤)」。

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 この辺りで、「ワインはどうぞお気に入りのものを選んで、ある限り飲んでください」とありがたい勧めがあった。
 丸ごと松茸の炭火焼が次にきた。銘々の七輪で、丸ごとの松茸を好みの大きさに割いて焙り、大分・竹田産の香母酢(かぼす)を搾りかけ、「またいち」の焼き塩をつけて食べるという豪儀な仕掛け。ワインは新潟産の柑橘系の香りがする「萌黄台園ソーヴィニヨンブラン」。

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 次にまた大アラの、こんどはあら炊き。刺身とはまた違うアラの旨味を味わう。付け合わせの牛蒡(ごぼう)も美味だった。ワインは「鶴沼トラミーナ」。
 次に肉である。角切り佐賀牛のすき焼。下関産の根付き鴨頭(こうとう)葱と青森産の天然舞茸だけが添えられている。最高級のステーキ用ロース肉を角切りにして、旨味が逃げないようにまず鍋の上で焼き目をつけ、シンプルなすき焼に仕上げ、素材そのものの味を楽しめるようになっている。ワインは「城ヶ岳ヤマソーヴィニヨン2005年」。

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よく食べ、よく飲んだものだと思うが、たっぷり時間をかけ、隣席の人との会話を楽しみながらの宴だから、すんなり腹に納まる。改めて、これが本来的な晩餐なのだな、と納得した。
 御飯は、標高700メートルの大分・竹田の棚田で穫れた新米使用。豊後牛の堆肥を使用して育てたという。この日精米のものを使っている。それを京都の職人が手づくりした銅釜で炊き上げているのだから、御飯が旨いのは当然である。あら汁、自家製漬物付き。日本有数の星野村産玉露のほうじ茶が上品に香ばしかった。
 果物は佐賀産の黒無花果(いちじく)、朝倉産の柿、日田産の新高梨。デザートワインはやわらかい味の「北海道ケルナー・遅摘み芳醇」。
 最後が自家製蒸陶饅頭。自然薯入りのかるかん饅頭を特注の陶器の中でふっくらと蒸し上げた同荘オリジナルの菓子。そして星野村の「しずく茶」がまた甘く、旨く、宴の最後を締め括るのに相応しかった。
 宴の間中、辰巳氏はテーブルを巡りながら客と会話し、新しいワインが注がれる度に、それを選んだ理由について実に詳しく、熱っぽく語ってくれたのだった。
 時間がゆったりと流れ、宴は深夜にまで及んだが、無論、中座する人は一人もいなかった。帰路に就く人の顔は皆、豪華な宴の余韻とワインの酔いで、紅く染まって、満足げだった。


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