料亭Q&A
高坂編集長
小野店長
観山荘が発行する日本文化情報誌「趣人」の編集長が料亭に関するいろいろな疑問を、料理長や店長にぶつけるシリーズ企画、「料亭の上手な使い方」。今回のテーマは「和食のきれいな食べ方」子どもの頃から魚の食べ方が苦手な編集長が、「あー、この人は粋だなぁ」と思われるきれいで正しい和食の食べ方を聞きます!

和食のきれいな食べ方

椀のきれいな食べ方

いつも悩むんですが、新しい箸についている紙の帯、あれの正しい外し方を教えてください。
ちぎらずに、するりと抜いてもらったほうがきれいだと思います。抜いた帯は、食事をするのに不要ですから、折敷の隅に置いてください。仲居が適当に片付けますから。
きれいに見せる箸の使い方なんてないですか。僕はどうも苦手で。
そうですね。持ち方に少々難があっても、持つ位置を、上1/3ぐらいのところで持たれるときれいに見えますよ。
次に悩むのがお椀なんですが、取ったお椀の蓋はどこにどう置けばいいんですか。
折敷の左外に、裏返して置いてください。椀には糸尻がついているでしょ。それがついてるものは、糸尻が卓なりお盆なりにつくように置くのが作法です。
お椀は、最初におつゆを飲んでから実を食べたほうがいいですか。
そうですね。まず椀の景色を愛でて、おつゆを一口、二口飲んでもらえると料理長も嬉しいと思います。
椀の景色を愛でる。いい言葉ですね。勉強になります。中の具ですが、食べる順番などありますか。
いいえ、それは気にしなくていいですよ。お好きなように食べてください。くずして食べても構いません。
中がぐちゃぐちゃになってもいいんですか。
はい。食べていくうちに、いろんなものがくずれて混じって、おつゆが最初と違った味になってきます。そんな味の変化を楽しんでもらうのもいいと思います。
なるほど、それはいいですね。では茶碗蒸しも最初から混ぜてもいいんですか。
どうぞ、どうぞ。ざっくり混ぜて召し上がってもらったほうが具が混じっておいしいと思います。

刺身のわさび問題を解決!

いろんな意見があって未だに僕の中で解決していない問題に、刺身わさび問題があります。刺身にわさびを直接つけるのがいいのか、醤油に溶かせて食べる方がいいのか、おいしく食べるにはどっちがいいんでしょうか。
僕は両方試したんですが、あまり味の違いがわからなくて(笑)。
わさびを醤油に溶かすのはマナーとしては基本的にNGといわれてますが、僕はどちらでもいいと思ってます。
本わさびなんかは醤油に溶かしたほうが風味がいいし、お好みで楽しんでもらえればいいんじゃないでしょうか。ちなみに刺身にわさびを合わせる理由なんですが、わさびは抗菌作用があるので生ものを食すときの安全面での効能を考えてのことだといわれています。
わさびがそうやって使われるようになったのはいつ頃ですか。
江戸の後期、握り寿司の流行とともに広まったとものの本には書いてありますね。
その頃から効能を考えていたなんて、昔の人はすごいですね。
そうですね。味の面では、わさび特有の辛さ、香りが鮮魚特有の生臭さを消し、淡白な生魚のあじわいにアクセントをつける役割があります。
刺身といえば、もうひとつ聞きたいことがあります。醤油の器は持ってもいいんですか。
はい。醤油の器はもともと手で持つものなんです。そのほうが食べやすいし、醤油もこぼれません。口で添えるよりも器を口に持っていくほうがきれいです。

焼き魚のきれいな食べ方

さて僕の一番の悩みなんですが、焼き魚をきれいに食べるコツがあれば教えてください。
そうですね。食べる前にまずヒレを取ってください。
なるほど。外したヒレはどこに。
皿の片隅などにまとめておいてください。次に中骨に沿って身に箸を入れます。こうして箸を入れておくと食べる時に身がはがれやすくなりますから。
そうなんだ!
次に食べ方ですが、頭の後ろから尾へと一方向に食べてください。頭のほうから食べると身がはがれやすく、散らばりにくいのでおすすめです。
なるほど。
上の身を食べたら、中骨を持ち上げ、骨を外してください。
え、裏返さないんですか。
はい。裏返すのはマナー違反だといわれています。
どうしてですか。
はっきりしたことは私もわからないんですが、中国では、魚を裏返すことは「不運」につながる、船が横転するのと同じような意味があるそうです。
へぇー。じゃあ、それが日本に伝わってきたのかな。それで、中骨を外したあとはどうするんですか。
中骨は頭をつけたまま外してください。尾の骨も折ってはずします。
外した骨は皿の端へ寄せて、残りの半身をいただきます。
半身をいただいたら、あとは小骨やヒレなども中骨と一緒にまとめると、きれいだと思います。

いやー、これはきれいですね。今日は長年の悩みが解決できて、喉に刺さっていた小骨が取れたようです。
あはは、魚だけに、ですか。今日は一通りの食べ方をご紹介しましたが、基本は、「人を不快にせず」、「美味しく」、「場を楽しく」を心がけていれば、大丈夫だと思います。
わかりました。でも、焼き魚は今日から家で練習しまーす。