ごらくはらくご

立川談幸師匠のこと

「鳴かず飛ばずも芸のうち」
これは立川談幸師が真打ちになったときに、談志師匠から贈られた言葉だそうです。
ハレの日に贈るには決してふさわしいフレーズではありませんよね。
ところがこの言葉の中には、談志師の深い愛情が込められているんですね。
談幸師は著書「談志狂時代」で、こんなことを書かれています。
「即、答えを出す落語家もいる。即、答えの出せる落語家を羨むこともあったが、渡しはどうも、そういうタイプではなさそうである。だから今は開き直って、何年も何年もかけて、自分の芸の確立のために長くやっていこうと考えている」
談幸師のそんな芸風を知り尽くしていたからこそ、談志師はあの言葉を贈ったんだと
思います。

昭和29年(1954)に東京に生まれ、十代半ばから立川談志師に強い憧れを持ち、明治大学(渡辺正行、小宮孝泰と同級生)卒業後入門、立川流唯一の内弟子として過ごしたのが談幸師です。
彼が真打ちになったときの挨拶文に、談志師はこんなことを書かれています。
「数多い弟子の中で談幸は師弟の生活において<完璧>でありました。文字通り
<完璧>なのであります。それが証拠に談幸のみが私の弟子の中で過去唯一の内弟子であった。と言うことは人間生活の感情行動が見事に解る特性があるのです。談幸の対人関係も完璧に近いものと想像できます。(中略)談幸は付き合って損をさせない数少ない落語家であります」
あの談志師が二回も完璧という言葉を使ってるぐらいですから、談幸師の人と成りが
容易に想像できます。「立川流の良心」と呼ばれているのもうなずけます。
でもお人柄だけではなく、芸ももちろん素敵です。

一点一画をおろそかにしない楷書の芸風で、まさしく古典落語の本格派なんですが、時折飛び込んでくる軽やかなギャグが効いていて、そのギャップがとても魅力的なんです。
持ちネタも200を数え、その中には埋もれた噺の復活を手がける「愛(め)づから百撰」という会で珍しい噺も多くあるそうです。
また投扇興(とうせんきょう)、千社札、川柳、吹き矢など趣味が多いことでも知られています。
「付き合って損をさせない数少ない落語家」、立川談幸師の独演会、ぜひみなさんも
付き合いませんか。

高坂圭

放送作家・脚本家・物語プランナー。主な作品、映画「千年火」「卒業写真」
ブログ:「圭さん日記