ごらくはらくご

立川談幸独演会レポート

落語を聴いていて気持良くなる時があります。演者さんの口跡の良さにうっとりして、まるで音楽に包まれたような気になるんですが、今回ご出演願った立川談幸師の噺はまさしくそのもの。ほんと、立て板に水とは、これいかにです。
一度たりとも噛まず、よどみなく流れる江戸弁に、大拍手でした。
初日、桜坂での演目は、一席目が「町内の若い衆」。
長屋の熊五郎が兄貴分の家に増築祝いに寄ると留守だったので、女将さんに「兄貴は偉い。こんな豪勢な建て増しが出来るなんて」と世辞をいうと、「うちの人の働きだけでこんなことができますか。言ってみれば町内の若い衆のおかげで出来たみたいなもんですよ」と奥ゆかしい返事。これに感動した熊、自分のかみさんに同じ返事をさせようと試みるが……、なんて噺。下町の女将さんのべらんめぇな感じがとても出てて楽しい高座でした。
二席目は「抜け雀」。小田原の宿で七日も居続けた絵師が、宿賃の代わりに雀の絵を描く。折角の衝立に、なんでこんな絵をと、頭を抱える主人。しかし翌日雨戸を開け日の光が差し込むと、絵の中の雀が……、というファンタジックな噺ですが、これも師匠の流暢な調子に引きこまれました。
噺の後は、これまた名調子の料理。牛ロースの八幡巻、鮎エビ身上挟み揚げ、美味しかったですよ。

二日目、観山荘別館での一席目は「短命」。伊勢屋のお嬢さんと結婚するとお婿さんはいつも早く死んでしまう。3人結婚したがみんな短命。なぜかと聞く八五郎にご隠居が答える。「……過ぎるからだろ」。無粋な男、この答えがわからず何度も尋ねるという、おもしろ色っぽいお噺。この中に出てくる川柳がいいんですよね。
その当座 昼も箪笥の 環(かん)が鳴り
新婚は 夜することを 昼間する
何よりも 傍が毒だと 医者がいい
なんてね。
もちろん楽しい高座だったんですが、僕が驚いたのは二席目の「鹿政談」。
その昔の奈良では、鹿は神の使いとして大事にされ、死に至らしめたものは死罪などの規則もあった。そんななか、豆腐屋の与兵衛は鹿を犬と間違えて殺してしまった。与兵衛はお白砂の場に……という噺なんですが、いやー師匠の流れるような口調は見事のひと言でした。よどみのない調子は、良質な音楽そのものでした。
鮎たで味噌焼き、鰻蒸しなどを一緒にいただきながらお話ししてくれた芸談の数々楽しかったですよ。
とくに立川談志師匠のあのエピソード……。
はい、これを聞きたい方は、また談幸師匠をお呼びしますんで、その時にぜひ観山寄席においでください。

高坂圭

放送作家・脚本家・物語プランナー。主な作品、映画「千年火」「卒業写真」
ブログ:「圭さん日記