ブックタイトル趣人02

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概要

趣人02

 沖縄へ行くというだけで胸が躍る。これまで五度訪れているが、行けば行くほど惹かれていく。溺れていく。 沖縄は、一説によれば、幅が狭くて南北に長い島が、沖から見ると一本の縄が横たわっているように見えるところからその名があるというが、むろん、沖縄が一筋縄でいくわけがない。 本土の人で沖縄を“発見“し、光を当てた先人には柳田国男、折口信夫、柳宗悦などがいるが、改めて“発見“されるまでもなく沖縄には長い歴史と南方の風土にはぐくまれた独自の豊かで奥深い多彩な文化があったし、現在も濃く名残をとどめている。 それはそうなのだが、私たちは学者や研究者ではなく単なる旅人なのだから、現地を訪ね、その空気を吸い、風物・文化の一端に触れて、何らかの感慨を得られればそれでよい、と気を楽に考えることにしている。そして今回は高坂編集長の発案で、「布」を見ることを一応の目的として楽しく動いてみようということになった。よかろう。程の良い案である。 ほぼ定時に那覇空港着。予報通りの雨模様だ。レンタカーを借りて首里の沖縄県立博物館へ。今回四宮キャパには助手が付き、そのK君が運転手。ナビ付きの車だ。博物館ではちょうど企画展「工芸王国/ 人・技・心」が開催中とのこと。 「布」が圧巻だった。びん型、首里の織物、読谷山花織、八重山上布、久米島紬の数々。「平成十二年度沖縄県無形文化財保存伝承事業」で、その多くが平成十二年の製作で、沖縄の染と織の健在がうかがえてうれしかった。中に数点、参考展示品があり、例えば宮平初子作「絹浅葱地花倉織」や平良敏子作「芭蕉布着物・サバキ銭玉」など、ため息が出るような作品だった。 柳宗悦は『手仕事の日本』に「沖縄の女たちは織ることに特別な情熱を抱きます。絣の柄などにも一々名を与えて親しみます。」と書いている。六十年前の状況だが、その伝統が今も息づいているのがとても貴いことに思われた。 首里らしい風景ということで金城石畳などを撮影した後、雨でもあるし、深追いを止めて、第一牧志公設市場へ。二階の一軒に入り、てんでんに好みの品を注文してビールを飲む。ここではいつも気分がよく、ついつい長居になるが、夕食も控えているので程々のところで腰を上げ、沖縄ハーバービューホテルにチェックイン。 夕食は久茂地の琉球料理「美栄」。初めての店だ。由緒ありげな、風情のある店構えだ。二階でコース料理をいただく。「ぽうぽう」という前菜から汁物、揚げ物、煮物、あえ物、炒め物、ご飯、デザートまで、いずれも淡く上品な味で、量も程よい。もちろん、その間ずっと泡盛の古酒。 夕食後、編集長の案内で仲田幸子「でいご座」へ。四宮キャパはなぜか不参加。最大音量で沖縄民謡を満喫した。幸子さんの孫、仲田正江嬢のCDを入手した(今、これを聴きながらこの原稿を書いている)。サイン入りなのだ。 翌朝、雨は止んでいた。一路、大宜味村へ。喜如嘉の芭蕉布の取材だ。少し早く着いたので「道の駅おおぎみ」で少憩。ここからの東シナ海が素晴らしい。たしかに、地球は丸い。海の水はもちろん、これ以上はないというほど澄んでいる。 平良敏子さんには会えなかったが、芭蕉布事業協同組合で娘の平良美恵子さんの話を伺った。今でこそ芭蕉布といえば喜如嘉だが、昔は南西諸島全域でつくっていて、喜如嘉の物が最高級だったのではない。結局、ここの人たちの努力で現在の地位を築いたのだ。喜如嘉では以前は芭蕉布は「手前着」だった。ただ、エイサーで女の人が自分独自の織りのものを着て踊るのが自慢で、競い合っていた。そんなことが下地になっているのかもしれない……。 いただいた説明書を読むと芭蕉布が出来るまで大ざっぱに言って二十三工程ある。そして驚いたことに二十二工程目でようやく「織り」なのである。その織りも、糸が「弱く」、気を抜けないという。根を詰めた織りの作業でなおかつ繊細微妙な模様を織り込んでいくという気の遠くなるような仕事なのだ。 明治末期の着物を見せてもらった。絹に劣らないほどの極細の繊維でしかも紛れもない芭蕉布。その水準の高さに驚嘆したが、最高級品はやはり琉球王朝の保護管理のもとでつくられたものという。上には上があるものだ。 世界遺産の今帰仁城跡を見、備瀬集落のフクギ並木を見てから本部町伊豆味の「藍風」へ。城間正直さんの工房に隣接して山小屋風の喫茶店があり、城間さんの染色作品を展示販売している。伊豆味は琉球藍の産地なのである。全くの山中。あたりの佇まいにも城間さんの作品にも心地良い風が吹いていた。 この日の宿は万座ビーチホテルだった。何とも結構なリゾートホテルではある。万座毛の彼方に沈む夕日が霞んでいた。 翌日は快晴。再び首里へ。四宮キャパは初日、雨で撮れなかった首里城を撮らなければいけない。私には何回目かの首里城の周辺を歩き回りながら、この城が決して威圧的ではないことを改めて確認したことだった。 帰りの便は四時発。まだ時間があったので再び牧志の公設市場二階へ行き、ビール。かくて、慌ただしかったけれど収穫も多かった二泊三日の沖縄旅行が終わった。おどひおぼくちしのぶひとわざこころよみたんざんはなおりきぬあさぎじはなくらおりジンダマかすりまきしクースおおぎみそんきじょかくもじがらなきじんび せもとぶいずみ読者プレゼント城間正直さんの作品、藍染めのテイッシュ入れを抽選で10名様にプレゼントします。氏名・住所・年齢を明記の上、下記の住所までご応募下さい。本紙へのご意見、ご感想などもお待ちしております。なお、発表は発送をもって変えさせていただきます。(株)観山 「 趣人」編集部 〒 802-0064 九北州市小倉北区片野2-15-12 4階■応募先筒井ガンコ堂の「旅本舗」旅と文●筒井ガンコ堂(作家。雑誌「FS」編集長)2黄色地菊牡丹模様びんがた胴衣(沖縄県立博物館所蔵)那覇市 naha万座毛 manzamou今帰仁城跡 nakijin大宜味村 ohgimi根のいる手仕事、芭蕉布会館にて。おり世界遺産「今帰仁」城跡筒井氏、那覇空港でもの想い?色あざやかな魚たち。牧志第一公設市場にて沖縄の青い空を思わせる城間正直さんの作品どこまでも澄みきった青い海昔の風情を伝える金城石畳芭蕉布苧麻雲に梅文様(沖縄県立博物館所蔵) 藍首里城芭蕉の葉3 2協力/全日空