絵の具箱のひとりごと

何かと理由をつけて、田舎の高校生の私は
小倉の街によく遊びに来ていた。
天守閣の再建は一九五六年(昭和三十四年)だから、
城はまだなかった。
紫川の周辺には、バラックが積み木のように立ち、
水面にはボートが浮かんでいた。
ある日。井筒屋の食堂で
紙のように薄いかまぼことネギだけの
安いうどんをすすっていた。
前の席には、ばかでかいアメリカ兵(進駐軍)が、
牛肉(ハンバーグ?)でうまそうにビールを飲んでいた。
日本中がまだ混乱の中で駆けずり回っている時代だった。
驚いた。羨ましくも思った。
「これが文化だ!」と実感した。
それから本気で絵を描きはじめて画家になった。
あの日から五十年。
私は「食」に走り、朝からビールを飲んでいる。
少しだけ「文化」もわかりはじめた。

kokuranoe

絵と文●高坂昇(洋画家)