文化庁芸術家在外研修員として、ポーランドに留学した時のことだ。ヨーロッパ古典芸術の素晴らしさを語る滝さんに、研修先のクラコウ美術アカデミーのベイマン教授はこう答えたという。
「君達は口を開けば古典絵画は素晴らしいという。何故なんだ、君たちの国こそファンタスティックな伝統で溢れているではないか」
ヨーロッパの古典芸術を賛美するたびに突きつけられる問題。滝さんはそのたびに返答に窮してきたという。
しかし滝さんは今語る。「古典技法を過去の遺産として見ずに今の素材として咀嚼できるはずだ。つまり西洋の伝統にどっぷりつかっていない負のエネルギーが武器になる」
東洋と西洋の融合。滝さんはそのために改めてヨーロッパの古典絵画を今も研究中だ。
「研究すればするほど、自分の技術がまだまだだと気づく」
二紀会の審査員、福岡教育大学教授、そして文部大臣賞を始め、数々の賞を受賞してきた画家は、驚くほどに謙虚で誠実な人だった。
驚いたといえば、もうひとつ心に深く残った言葉がある。それは、アトリエの隅にある朽ち果てた林檎や蜜柑を見つけ、その理由を尋ねた時のことだ。
「そう、絵の題材として置いてます。これはわざと腐らせているんです。だって、きれいすぎるものは心にひっかからないでしょ。このくらい朽ちた方が、心に届くんですよ。でも匂いが強烈なのが玉に傷なんだけどね」
そういって滝さんは悪戯が見つかった少年のように笑った。
インタビューの後、ご自宅に案内して下さった。
鯛のかぶと煮をはじめご自慢の手料理とおいしいお酒をご馳走になったのだが、その間も、滝さんは時にはユーモラスに、そして時には情熱的に社会、芸術、文化論など、とても興味深い話を語ってくれた。
インテリジェンス。
夜も更け、杯を重ねるごとに元気になる滝さんを見ながら、私は久しぶりにそんな言葉を思い出した。

翳りのなかで(1600×1100mm)
画家●滝純一
東京教育大学大学院絵画専攻修了。
現在、二紀会委員、福岡教育大学美術科教授。
福岡県、長崎県、大分県をはじめ全国各地の美術館に
作品を収蔵。