ごらくはらくご

将来の名人、柳亭市馬師匠

声がいい男には、グッとくる。低くて柔らかく響くサウンドに包まれていると、たとえ顔は並でも、いい男に見えてくる。という話を、多くの女性から聞いたことがあります。そこに歌の上手さが加われば、モテ度はさらに増すとか。
そんな女性好みど真ん中の落語家が、柳亭市馬師だ。なんと師匠はポニーキャニオンからCDデビューも果たしている本物の歌手なのです。
手元にある宣伝チラシを眺めると、「誰もが認める自慢ののど、落語界きっての歌自慢!柳亭市馬歌手デビューマキシシングル、“山のあな あな ねぇあなた”」と書いてありました。
もちろん師匠の良いのは声だけじゃありません。本業の落語は、「将来の名人候補」と多くのツウが口を揃えて讃えるほどです。

昭和36年に大分県緒方町で生まれ、竹田高校を卒業後、五代目柳家小さん師に入門。以来、古典落語の本格派として精進を重ね、「にっかん飛び切り落語会奨励賞」、「国立演芸場花形演芸大賞」などを受賞されています。
立川談春師が「大人の風格」と評したその芸は、柔和な笑顔と大柄な身体から発散される温かな雰囲気で、観客を和ませてくれます。
ある評論家に、「当たり前の落語を、誰よりも心地よく聞かせてくれる。一般的にイメージされる“面白い古典落語”をのんびりと楽しみたい、という人には柳亭市馬を真っ先にお勧めしたい」と言わしめた師匠の落語は、真っ当な古典の中に大胆なギャグやアドリブが随所に入り、なんともはや楽しいのです。
興が乗れば自慢の歌も飛び出して、時折寄席は歌謡ショーと化す場合も。
昨年の12月には落語協会副会長に就任し、芸にますます磨きがかかったと評判の師匠、今回はお弟子さんと二人旅ということで、観山寄席では初、お二人の噺家さんが舞台に登場してくれます。
人柄の良さがそのまま高座の爽やかさとなって表れている柳亭市馬師の落語、ぜひご覧ください。

高坂圭

放送作家・脚本家・物語プランナー。主な作品、映画「千年火」「卒業写真」
ブログ:「圭さん日記