ごらくはらくご

立川談志師匠の言葉

談志師匠が亡くなりました。僕の一番好きな落語家です。まだ信じられなくて呆然としていますが、追悼の意を込めてこれまで師匠が残された言葉を綴っていきたいと思います。
どれも僕が大笑いさせられたり、深くうなずいて共感したものばかりです。

まずは、落語について。
「落語とは人間の業を肯定するもの」
「落語は忠臣蔵の四十七士じゃなくて、逃げちゃった残りの赤穂浪士二百五十三人が、どう生きるかを描くもんだ」
「落語とは一期一会。いつ最高の落語ができるか、自分でもわからない」
「評価ってのは相手が決めるもんだからね。いくら俺がうまい落語やっても“おしゃべり“っていわれたらそれまでだもん」

師匠のものの見方、考え方の原点は。
「いい戦争だと思ってたら、悪い戦争になった。この一事のために私はもはや何事も素直に見ない習慣を身につけてしまった。いくら正義だ、正論だと新聞が叫んでもこれは嘘っぱちだと疑問を持ってしまう生き方になった」
「美談なんて嘘くさい。ほんとの美談は恥ずかしがって出てこない」

年齢を重ねて思うことは。
「(70歳を迎えたパーティーで)古希、そうか、古希ってことか。イヤだなと思いますね。あと、まぁ残光というか余韻というか、これをまぁ、生き様として見せるよりもう手がないような気がしますね」
「俺は年寄りの初心者だからね、どうしていいかわからないんだよ」
「人間未練で生きている」

人生観、道徳観に共感。
「自分の幸せの基準がないヤツは、イヤなヤツだね」
「植物や動物は決してウソをつかない」
「バカとは状況判断の出来ないヤツのことをいう」
「怒りは相手の寛容さに対する誤認」
「己に自信のないヤツが常識に従う。不安を持つから動き出す。人生なんて、食って、寝て、やって、おわり」
「学問の量にしがみつくな」
「よく覚えとけ。現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中がおかしいといったところで仕方ない。現実は事実だ」
「己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱みを口であげつらって、自分のレベルにまで下げる行為、これを嫉妬というんです」

大笑いさせられた泥棒への手紙(師匠の部屋、机の上に置かれている)
泥棒さん江。この家は資料室という演芸等の資料だけです。金品はありません。疑うなら探すのはいいですが、荒らさないでください。
ささやかですが、ご苦労賃です。
泥棒代 3万円。

最後は、師匠からもらったハガキ文を紹介します(ガンが発覚した時に僕は師匠に手紙を出したんですが、その返事です)。
拝復
大騒ぎ”ネズミ一匹”の感あり
医者はいいかげん、100%ガン進行というのもいたしネ。で、東京眺めて暮らしている。
あまり喋らない日常も又楽し。
原稿書いて、歩いて、呑んで…元気 ナリ

「芝浜」をライブで聞いた時、感動でおもわず起って拍手をした僕に、下がっていた緞帳をあげさせ、「スタンディングオーベーションというの、あの感想は本物だね」といわれた時の喜びは、今でも覚えています。
二度と、絶対に二度と現れることのない天才落語家、立川談志。
これまで素敵な笑いと驚きを与え続けてくれて、本当にありがとうございました。心よりご冥福をお祈りします。

高坂圭

放送作家・脚本家・物語プランナー。主な作品、映画「千年火」「卒業写真」
ブログ:「圭さん日記