ごらくはらくご

観山寄席の思い出

「料亭で寄席をやりたい。企画は君にまかせる」と当時社長だった、川畑摩心氏(現会長)から依頼を受け、演芸好きだった僕は即座に頷いた。頷きながら第一回目のゲストは、「すわ親治」さんにしようとすでに決めていた。

すわさんとは友人でもあったし、何より彼のバカバカしい芸がたまらなく好きだった。こうして第一回観山寄席「爆笑!すわ親治の世界」が始まった。
マニアックなところのあるすわさんの芸が果たして受け入れられるのか、僕は彼と同じくらい緊張し、ステージを見守った。

杞憂だった。みんながんがん笑ってくれた。笑いながら隣の人を叩くおばちゃん、椅子から転げ落ちそうになるおじさん、お腹を抑えてる若者。
会場中に響き渡る笑い声を聞きながら、僕は嬉しくて泣きそうになった。
自分が面白いと思った芸人さんを、お客様も面白いと受け入れてくれることの幸せに酔いしれた。以降、十年間演者のセレクションをすべてまかせてもらってることに、観山荘の皆さんには深く感謝している。

感謝といえば、毎回渾身の料理を提供してくれる、桜坂、別館の料理長の存在も欠かせない。こういったイベントの場合、食事はお弁当といったスタイルが多いのだが、観山寄席は「はしり」「旬」「なごり」にこだわった本格懐石料理を供している。飲み放題というのもスタッフ一同の心意気だ。

演者さんの思い出に戻ろう。福岡県出身の「立川笑志」師は、まだ二つ目の頃だったが師の「反対車」を観て感激しお呼びした。真打になり、「生志」と名を改めたときも、昇進を記念し出演してもらった。

寄席と銘打つからにはいろいろな演芸を観てもらいたいと思い、講談の「神田紅」先生にも出ていただいた。川畑康太郎氏(現社長)、裕次郎氏(現副社長)とともに舞台に出され、講談の手ほどきを受けたのも懐かしい思い出だ。

東京在住の笑いの名プロデューサー、木村万里氏から推薦を受けDVDを見てショックを受けたのが、「柳家喬太郎」師だ。その唯一無二の世界に驚愕し、しばらく笑いが止まらなかった。

東京で高座を拝見し、本寸法の芸が気持ちよくお人柄も素敵だったのでお呼びしたのは、海外でも活躍されている落語の伝道師「三遊亭竜楽」師だ。

「三遊亭白鳥」師を福岡空港でお出迎えしたときは驚いた。バックパッカーのようにリユックサックひとつで現れ、まるで師の予測不可能な新作にぴったりの出で立ちだった。

「古今亭菊之丞」師は僕が構成を担当した「落語遊々散歩」というDVDに出演してもらった縁でお願いをした。日本舞踊で培った所作と、歌舞伎役者のような顔立ちが女性客に人気だった。

初めての上方、女性落語家ということで「桂あやめ」師は、あでやかな姿と、舌鋒鋭い新作とのギャップが楽しかった。

三味線片手に漫談する姿をテレビで観て、その粋さとバカバカしさが絶妙に入り混じった芸に魅了され出演願ったのは音曲家、「柳家紫文」師だ。

「柳家鯉昇」師は喬太郎師と同じく、木村万里さんから推薦を受け高座を拝見したところ、脱力感満載な感じが心地よく、一発でファンになった。

先述したDVDに出てもらった縁でお願いしたのは「三遊亭遊雀」師。高座はもちろんだが、スタッフと一緒に中州へ繰り出し大騒ぎしたことも楽しい思い出だ。

「柳家三三」師は、出演願った演者さんにお勧めの落語家を聞いたところ何人もが名前を出した人だった。観山寄席では一番若い師匠だったが、プロが薦めるだけあって見事な高座だった。

新作、古典なんでもござれでウィットに富んだ軽やかな芸で楽しませてもらったのは「立川談慶」師だが、打ち上げの席の雑談がさらに面白かった。

観山寄席では一日目の桜坂公演の後、姉妹店イムリで演者さんと打ち上げをするのが恒例になっている。ほろ酔い気分(ときには泥酔のときも)で聴く師匠方の芸談、雑談は本当に楽しく、僕みたいな演芸ファンには至福の時だ。

楽しいといえば、「桂平治」師のからっとした明るい芸風も忘れられない。ファンになった方も多く、大名跡「文治」を襲名された後も、再び出演していただいた。

立川流の良心といわれた師のお人柄と端正な芸に魅かれ出演願ったのは「立川談幸」師だ。口跡の良さと本寸法の芸に魅了された。

「柳亭市馬」師も、見事な口跡に感動した。末は名人と噂されているのも当然だと思った。お弟子さんも連れて来ていただき、お二人出演となったので、少しだけ寄席の雰囲気も味あわせてもらった。

出演してもらおうと思ってる旨を柳家喬太郎師に話したら、「白酒はいいよ!」と即答だったので、すぐに出てもらったのは「桃月庵白酒」師。やっぱりプロの推薦は間違いない。会場は爆笑の渦だった。

そして記念すべき十周年企画にはなんと三人の落語家さんに出演してもらうことになった。瀧川鯉昇師のはからいで、普段からおつきあいの深い「柳家喜多八」師と、「入船亭扇遊」師に声をかけていただき、三人会を行うことになったのだ。

観山寄席を始めるときに、ひとつのルールを決めた。それは「馴染みの芸人さん」を作るということだ。
毎回違うゲストを呼ぶのではなく、同じ演者さんに何度も来てもらい、お客様が身近に感じることで、より深く演芸、落語の楽しさをわかってもらいたいと思ったからだ。その趣旨は、演者さんにも伝わっていると自負している。

だって十年経ったら、三人会だもん。嬉しいじゃないですか!

スタッフ一同これからも一丸となって、観山寄席を続けていく所存ですので、どうぞ隅から隅まで、ずずずいーと、おん願い申し上げたてまつりまする。

高坂圭

放送作家・脚本家・物語プランナー。主な作品、映画「千年火」「卒業写真」
ブログ:「圭さん日記