ごらくはらくご

乙だねぇ、よっ、喬太郎!

本来ならこういう話は身内だけで止めるのが粋だと思うのだが、少し時間も経ったことだし、野暮を承知で書かせてもらいます。

あれは前回、柳家喬太郎師に4回目の出演を願った時でした。
高座も終わり、「お疲れでした」なとど盃をあわせてしばらく経ったころ、僕は少し酔っ払って、「いや~十年前に比べると師匠が人気者になったんで、最近はお呼びするのを躊躇してるんです」なんていったんです。

すると師匠は、とても照れた口調でこう答えてくれました。
「いやいや、何をおっしゃいます。芸人風情がこんなこというの生意気で申し訳ないんですけど、実は今回の日程をいただいたとき、久方ぶりの休みを取ってたんです。引っ越しをする予定があったので、それでね。でも観山寄席さんからのご依頼でしょ。……断れませんよ」

こんな、乙な言葉、大好きな噺家さんから言われたら、ファンとしてはたまらないですよ。
プロデューサー冥利にも尽きるというもんです。

で、僕と同じように嬉しくて狂気乱舞したスタッフが、師匠に言ったんです。
「……ありがとうございます。嬉しいです。だったらこれからは1年に1度来てください」
僕は他の方もそうですが、馴染みの噺家さんには3年に一度くらいの割合でお声かけしてます。そのくらいが演者もお客さまも新鮮だろうなと思うからです。

おそらく師匠もその思いは百も承知のおあ兄さん。
「呼んでくれるならもちろん来ますよ。でもね、……塩梅がいいのは2年に一度くらいかな」
いやはや、この返事も乙だねぇ

なにしろ10周年のお祝いの言葉をもらったときに、「ほぉ~十周年。……ちょうど辞めどきじゃないですか」と言い放った方です。
僕はその時も大笑いし、師匠にやられました。

さて今回の観山寄席は、師匠のリクエストどおり、塩梅がいい2年に一度のご出演です。
ぜひ皆さん、この機会に唯一無比の喬太郎落語をご堪能ください。

高坂圭

放送作家・脚本家・物語プランナー。主な作品、映画「千年火」「卒業写真」
ブログ:「圭さん日記