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62年ぶりの大名跡 春風亭柳枝を背負う実力派

今回お迎えする、春風亭柳枝師匠は、
「この人の古典はいい」と
同業者からも高く評価されている実力派です。
しかも継いだ名前が、落語ファンなら誰もが息を呑む
“大名跡”「柳枝」。
「柳枝」は、春風亭一門の源流とも言われる特別な名前です。
「子別れ」の作者ともいわれています。
昭和の名人・八代目柳枝が53歳で亡くなって以来、
実に62年間も空席。
長い間、“軽々しく継げる名前ではない”と言われ続けてきました。
そんな大名跡を、真打昇進とともに託されたのが、
当時「春風亭正太郎」だった柳枝師匠。
本人も最初は「まさか僕が?」と思ったそうです。
しかし、師匠や落語協会の幹部たちから
「正太郎なら」と推され、
「これは師匠からの大きな贈り物なんだ」と
感じたと語っています。
一方で、「正太郎が柳枝を継ぐのか」と
思う人もいるだろう、と自分自身で率直に綴
っているところに、この人の誠実さがあります。
だからこそ、“名前に負けない噺家にならなければ”
という覚悟が、いまの高座にはにじみます。
柳枝師匠が落語を始めたきっかけは、
中学時代、落研出身の国語教師が
「文化祭で寄席をやりたい」と言ったものの、
誰も手を挙げなかった。
先生が気の毒になって「じゃあ僕がやります」と
手を挙げたのが始まりだったそうです。
そこで三遊亭圓生の『死神』を聴き、
「こんな世界があるのか」と衝撃を受ける。
さらに圓生のモノマネをしたら大ウケ。
そこから落語に夢中になったといいます。
柳枝師匠の魅力は、人間の愛しさが滲みでるとこ。
泥棒が仏像の首を切り落としてしまい、
なぜかその修理を手伝わされる噺『にかわ泥』では、
気弱な泥棒がだんだん愛おしく見えてくる。
強烈に笑わせるというより、
「ああ、人間っておかしいなあ」と、
じわじわ可笑しみが広がります。
江戸の空気を自然に客席へ運んでくれる噺家、
春風亭柳枝師匠。
観山荘初めてのお目見え。
どうぞお楽しみください。

高坂圭

放送作家・脚本家・物語プランナー。主な作品、映画「千年火」「卒業写真」
ブログ:「圭さん日記