日本料理の言葉をひもとく「花和え」
花を、和える。
なんとも美しい名前です。
日本料理でいう花和えは、一般には食用菊の花びらを、
ほうれん草や春菊などの青菜、きのこなどと合わせ、
出汁や酢じょうゆで和えたもの。
「菊花和え」とも呼ばれます。
つまりこれは、本当に「花を食べる」料理です。
考えてみれば、花を眺めることはあっても、花を食べる機会はそ
う多くありません。
ところが日本料理では、菊の花びらを一枚一枚ほぐし、さっと火を通し、
青菜などと和え、ひとつの料理に仕立てます。
菊には独特のほろ苦さと香りがあります。
そこに青菜の緑が加わり、黄色や紫の花びらが散る。
派手な料理ではありません。
けれど、小鉢の中にほんの少し菊の色が入るだけで、
食卓に季節がやってきます。
日本料理には、こういうことがよくあります。
春になれば木の芽。
夏には青柚子。
秋には菊。
冬には柚子。
旬のものをたくさん盛り込んで「季節ですよ」と声高に
主張するのではなく、ほんの少し添えて知らせる。
「ああ、もうそんな季節か」
食べる人がそう気づけば、それでいい。
なんとも奥ゆかしい季節の伝え方です。
しかも面白いのは、それを単に「菊と青菜の和え物」
とは呼ばず、「花和え」と呼んだこと。
料理の名前まで美しい。
日本料理には、雪、月、霜、霞、時雨、紅葉など、
自然を思わせる言葉がたくさん登場します。
味だけでなく、色を味わう。
香りを味わう。
季節を味わう。
そして、言葉まで味わう。
花和えという小さな一鉢にも、そんな日本料理の
楽しみ方が詰まっています。
花は、床の間や庭で愛でるもの。
そう思っていたら、器の中にも咲いていました。
今度、花和えに出会ったら、すぐに箸を伸ばさず、
ほんの少し眺めてみてください。
その小さな器の中に、季節がひとつ、咲いています。






